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クラシック・ファンをも魅了したモダン・ジャズ・カルテットの優雅な存在感

THE PAGE - 2月25日(日) 17時40分

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(THE PAGE)

 音楽の話をするとき、まずは「どんなジャンルの音楽が好きですか?」とたずねることがあります。好きなジャンルが異なる場合は、盛り上がらず話が終わってしまうことも少なくはありません。しかし、なかにはジャンルを超えた音楽も存在しています。今回はクラシック・ファンをも魅了した優雅なジャズについてジャズ評論家の青木和富さんが解説します。

プレスティッジのボブ・ワインストックが嫌ったピアニスト

 音楽を区分するいわゆるジャンルは、実にやっかいな存在だ。かつて、オーネット・コールマンは、音楽のジャンルとはレコード店の商品棚にだけ存在するもので、音楽とは関係ないと言ったことがある。かくいうコールマンのレコードは、ジャズに区分され、さらにフリー・ジャズという特殊なジャンルのコーナーの棚に押し込まれるのが常であった。一般にフリー・ジャズの開祖とされるコールマンだが、実は自分からフリー・ジャズという言葉を口にしたことはないという。コールマンの代表作の一つに、その名もズバリの『フリー・ジャズ』という傑作があるが、では、あれはどうなんでしょうと聞くと、レコード会社が勝手にそうしたと笑った。

 さて、コールマンの話は別の機会にすることにして、今回はジャズとクラシックの話である。プレスティッジのボブ・ワインストックが嫌ったとされるピアニストにジョン・ルイスがいる。ルイスは、ジャズ史上最長の活動歴の記録を残したグループ、モダン・ジャズ・カルテットの実質的なリーダーで、ワインストックは、この名グループの初期に関わったということになる。

 しかし、このグループの発足はなかなか複雑だ。モダン・ジャズ・カルテット(以下MJQ)のメンバーは、一応こうなっている。ビブラフォンのミルト・ジャクソン、ピアノのジョン・ルイス、ベースのパーシー・ヒース、ドラムのコニー・ケイ。しかし、ケイの前にケニー・クラークが、短い間だけれど初代ドラマーをつとめている。ところが、ヒースの前にもレイ・ブラウンがいたという時代もあり、これがこのグループの最初期型と考えられないこともない。何のことはないこの4人は、1940年代のディジー・ガレスピー・オーケストラのメンバーで、ホーン・セクションが疲れると、彼ら4人が残ってステージをつとめるということがよくあった。重要なのは、彼らはとても仲がよかったということだ。

 この時代のリーダー格はミルト・ジャクソンで、ミルト中心の録音がたくさん残されていて、それらは後年、MJQの名前で出されることもあった。ミルト・ジャクソン・カルテットも短縮するとMJQなので、まぁ、いいんじゃないかといった大らかな時代であった。実際、ジョン・ルイスに、MJQはいつ始まったんですかと聞くと、ヒースが参加した1952年ということになっているという返事で、そんなことはあまり気にしていないという感じであった。とはいえ、この当時、グループとしてやっていこうということになったのは確かで、ミルト・ジャクソン・カルテットから始まったが、その後モダン・ジャズ・カルテットと名乗り始める。この変化の中身は、ジョン・ルイスの存在が大きくなったということだ。実質的に双頭バンドで、それが次第にルイスが音楽監督を担当するバンドになり、そして、モダン・ジャズ・カルテットという音楽の不思議な宇宙を形成することになる。

 このグループの名曲と言えば、ジプシー・ギターのジャンゴ・ラインハルトに捧げられたジョン・ルイスのオリジナル「ジャンゴ」で、これはもはやスタンダード・ソングと言っていい。ルイスは、バッハに影響されたといい、実際、バッハの曲を演奏したり、その技法も取り入れ、これまでのジャズにはない世界を作り上げた。けれど、MJQの魅力は、そうしたことよりも、この「ジャンゴ」に代表されるどこかヨーロッパ風な哀感にあると言っていいに違いない。よく言われるように、ルイスの音楽はクラシカルではあるけれど、その中心にあるのはブルースで、それがヨーロッパのジャック・ルーシェやオイゲン・キケロといったクラシカルなジャズ・ピアノと確かな一線を画すものだろう。MJQのもう一人の強靭なソロイスト、ミルト・ジャクソンがこの世界に欠かせないメンバーである理由もそこにある。ヒースの端正なベースも強力な接着剤のように働き、この世界が見事に完成する。

クラシック・ファンをも取り込んだクールなアンサンブル

 しかし、このユニーク極まりないグループが世界中にファンを得たのは、逆説的に言えば、黒人音楽らしさを表面的に丁寧に消去したことにある。燕尾服に身を包んだ彼らのステージは、室内楽のような雰囲気で、それがジャズ以外のファンを取り込む大きな要因になったことは間違いない。実際、クラシック・ファンも楽しめる最適のジャズ入門グループといった紹介のされ方が実に多かった。ホーンのないそのクールなアンサンブルは、その本質がブルースであることに気付かなくても、心地よい深みのある極上の音楽であることには変わりはないのである。

 ルイスのヨーロッパ文化へのこだわりも尋常ではない。バッハだけではない。ピアノの椅子のマットもルイ・ヴィトン製というのはちょっと楽しいエピソードだが、そんなことではなく、普段あまり言及されないが、ルイスは、中世の大衆演劇の仮面劇(コメディア・デラルテ)の世界に深い興味と関心を寄せていた。もし、初期のMJQの代表作を挙げるとすると、その集大成ともいうべき『ザ・コメディ』は、是非聴いてほしいアルバムだ。MJQの初期のヨーロッパの哀感溢れるメロディーの世界がここに詰め込まれている。仮面を被った様々なキャラクターが即興的に物語を紡いでいくこの演劇世界は、ルイスにはどこか黒人たちがジャズを生み出したこの人間社会につながるものがあるように見えたのかもしれない。彼らがさっそうと燕尾服で舞台に登場したのも、燕尾服がどこか仮面のような役割をしていたように思えてならない。

(解説:青木和富)

 

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